FC2ブログ
午後23時、アメリカ南部にて
アメリカのテキサス州ヒューストンに駐在する筆者が当地にて感じた様々な事柄をお伝えします。
10 | 2018/11 | 12
S M T W T F S
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -

スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ヒューストン(周辺)観光ガイド⑤フォートワース現代美術館
ヒューストン「周辺」と題した通り、今回紹介するスポットはヒューストンではなく、ヒューストンから車で4時間の都市フォートワースにあります。しかし、個人的にあまりにお勧めなので、ここで紹介してみたいと思います。現代アートを、安藤忠雄氏の建築を、自分の限界に挑戦しようとする全ての人達に自信を持って紹介したいスポットです!

***************************************************************************************

安藤忠雄という日本人がいる。言わずと知れた世界的に有名な日本人建築家だ。独学で建築を学んだ氏は、20代半ばで4年間にわたる世界放浪の旅に出て、「生きることに意味はあるのか」を問い続けた。帰国後、コンクリートの打ちっ放しと幾何学的なデザインを多用する独自の作風を確立した後は、国内外で数々の作品を発表し、長きに渡り、世界的に非常に高い評価を受け続けている。最近の国内における作品では、東京の表参道ヒルズや、副都心線の渋谷駅、香川県の直島における一連のプロジェクトなどが有名だろう。

そんな安藤忠雄氏が手がけた作品がここテキサスにもある。ヒューストンから北西に4時間のところに位置する都市フォートワースで、2002年に完成したフォートワース現代美術館だ。氏の建築らしく建物本体にはコンクリートが多用され、屋根を支えるY字型の柱が設計全体に力強さを加えている。氏としてはこの美術館において、彼を象徴する素材であるコンクリートにテキサスの過酷な自然から美術作品を守るという意味も込めているという。そして圧巻なのは、建物のほぼ半分を囲む様に設置された大きなプールで、プールに張り出した柱やテラスの効果で、外側から見ると、まるで建物全体がプールの上に浮いている様な錯覚に襲われる。

こうした独自の設計はどんな発想から生まれるのだろう?安藤忠雄氏といえば自らの生き方を「ゲリラ」と表現し、ストイックな生き方を追求してきたことで知られており、自分の生き方についてかつてこう語っている。

「最初は誰も相手にしてくれませんでした。社会が認めてくれない。「今月は生きていけるだろうか?」という常に追い込まれた状態の中で仕事をしてきました。しかし、人間、極限まで追い込まれて初めてたどり着く境地があります。ひとたびその境地を経験した人は、瑣末な事柄にとらわれない、大局的な視野を持つことができ、どんなときでも平常心を保つことができるのです。」

フォートワース美術館の、極限まで迷いなく研ぎ澄まされた設計からは、自らを追い込み続けた結果としてたどり着いた氏の境地がにじみ出ている様に思う。

思えば、現代アートそれ自体も、芸術表現が全て尽くされたとも思える危機的な状況の中で、自分を極限まで追い込み、それでも新しい芸術表現を生み出そうとするアーティスト達の努力の結晶だ。この美術館の魅力はもちろん建築だけではなく、アンゼルム・キーファー、リチャード・セラなど現代アートの求道者たちの大作たちがその内部に展示されている。全体としては、1960年代からアメリカを中心に模索されてきた抽象表現主義(Abstract Expressionism)に関連する作品が多く、その意味では、同じく抽象表現主義の傑作であるヒューストンのロスコ・チャペルとセットで見て、「テキサスにおける現代アート」を体験してほしい美術館でもある。そして、安藤忠雄氏の広々とした空間設計が、個々の作品が持つポテンシャルをより引き出している様に感じられるのも見どころの一つだ。

自分を極限まで追い込んでこそ得られる境地。それが何なのか、少なくともそのヒントがここにはある。現代アートなんて難解すぎて、という人であればこそ、難しいことは考えずに、極限的な生き方のいくつかのあり方、それを垣間見る機会のつもりでぜひ訪れてほしいと思う。

Fort Worth 4

Fort Worth 6

Fort worth 5

Fort Worth 2

Fort worth 1

**************************************************************************************

フォートワース現代美術館(Modern Art Museum of Fort Worth)
themodern.org/
Address : 3200 Darnell St, Fort Worth, TX 76107 アメリカ合衆国
Tel : +1 817-738-9215

スポンサーサイト
ヒューストン観光ガイド④ビア・カン・ハウス
ヒューストンのアート世界において重要な位置を占めるVisionary Art(視覚芸術)は、個人的に「持たざるもののアート」だと思っている。

持たざるもののVisionary Artとして世界的に有名なものに、カリフォルニア州のカリパトリアにあるSalvation Mountain がある。付近に住むレオナルド・ナイト氏が廃材や大量の絵の具を用いて、一人で作り上げたものだ。僕が俳優としても監督としても大好きなショーン・ペンが監督した2007年の映画「イントゥ・ザ・ワイルド」に、このVisionary Artを舞台にした印象的な場面が出てくる。

アトランタの裕福な家庭で生まれ、大学を優秀な成績で卒業した主人公のクリスは、経済的、物質的には恵まれていても、精神的には満たされない生活に嫌気が差し、大学を卒業したその日、自分の車に最低限の荷物を乗せて、アメリカ各地を巡る旅に出る。様々な場所を訪れ、これまでの人生でいつの間にか溜め込んでいた偏った価値観や思い込みを少しずつ捨てていったクリスは旅の終盤、このSalvation Mountainを訪れる。そこで、一見自分よりも遥かに貧しく見えるナイト氏が、独自の解釈による神の愛に満たされていて精神的には大いに充実しており、遂にはたった一人でこうした壮大なアートを作り上げたことに感銘を受ける。そして、本当の幸せとは何かについて自分なりの考えを固めたクリスは、アラスカの荒野へと(「イントゥ・ザ・ワイルド」)へと旅立っていく。

ここヒューストンにあるVisionary Art、ビア・カン・ハウスからも同じ様な「持たざるものの豊かさ」を感じられる。アメリカ有数の鉄道会社ユニオン・パシフィックのいす張り職人という、20世紀のアメリカ労働者階級を代表する様なキャリアを送ったジョン・マルコビシュ氏は同社を引退後、長く連れ添った妻のマリアとヒューストンでの静かな余生を送るはずだった。しかし、本人曰く、「芝刈りばかりの生活に飽きた」彼は、とはいえ海外旅行に出るだけの貯えもなかったため、何よりの楽しみだった晩酌後のビールの缶を使って、自分の家を飾りつけ始める。

その後何と18年に及んだ彼のアート・プロジェクトによって、夫婦の家の壁は、テキサスの地元のビールを中心に様々なブランドのビールのアルミ容器で覆われ、屋根からは同じくビールの缶のふたをつなげて作った飾りが、一見すると銀のレースの様に垂れ下がっている。余りに大量のビールの缶でできたアート作品に圧倒され、訪れた者は、ヒューストンにいながらにして、まるで魔法の国に迷い込んだ様な錯覚に襲われるのだ。そして、家の玄関には、「ワシらは黄金のルールに従って生きているんだ」「アーメン」という言葉が掲げられ、持たざる境遇の中で、それでも自分達が持っていた物を使って、ヒューストンの住民たちをあっと言わせるアートを作り上げた彼らが、いかに満たされえていたかを示している。


一人一人の人生は、それ自体がそれぞれ一つのアートだと思う。もしあなたが自分の境遇に不満があるなら、自分が持たざるものだと思うのなら、自分がそれでも持っているものを見直してみるといいと思う。例えば、あなたが憂さ晴らしに飲むビールの缶、それを使って壮大なアートを作り上げた奇才だっている。だったら、今あなたが持っている数少ないものにしても、あなたの人生というアートをより豊かにするのには十分すぎる程ではないだろうか?

beer 1

beer 2


================================================

Memorial DrからMalone Stに入ってすぐの住宅街の一角にありますが、付近には駐車場もないので、近くに路上駐車するしかないと思います。土日の午後しか空いておらず、その意味でも貴重なアートですが、絶対に一見の価値ありです!

Beer Can House(ビア・カン・ハウス)
住所: 222 Malone St, Houston, TX 77007 アメリカ合衆国
http://www.beercanhouse.org/about.php
ヒューストン観光ガイド③ Wiess Energy Hall & Ocean Star Offshore Drilling Rig & Museum
博物館(ミュージアム)には、その文字が示す通り、本来あらゆるものが展示されうる。英語のミュージアムの語源となったギリシア語のムーセイオンという言葉にしても、アレクサンドリア大王が作り上げたヘレニズム帝国の中で、世界各地からのあらゆる知や文物を集めた、エジプト・アレクサンドリアの総合学術機関を意味していた。それでも、その時代、その場所で、他とは異なったものが展示されるとしたら、そこにはそこに生きる人々の何らかの思いが投影されていると考えるべきだろう。その点、産業構造が多様化したとはいえ、もとより石油の街であり続けたヒューストンには、石油に関する博物館がいくつか存在している。

一つは、Houston Museum of Natural Scienceの一角にあるWiess Energy Hall。Natural Sience Museumといえば、何といってもアメリカ最大と言われる恐竜に関する展示が有名だが、ヒューストンに、テキサスに密着した展示という意味では、石油及び石油開発に関する展示物を集めた、このWiess Energy Hallも負けてはいない。ホールに入るとすぐ、世界各地で採れる石油の比重の違いを装置を回すことで実感できる展示に迎えられ、それ以外にも、石油、石油探査、そして石油掘削を自らの目で耳で、更には手を動かすことで理解できる様に工夫がこらされた展示が集まっている。

極め付きはホールの中ほどにあるGeovatorというアトラクション。遊園地のアトラクションさながらのこの装置は7分程度の間隔で訪れるものを地下7000フィートもの深さの石油の井戸の中に迎え入れる。全方位に張り巡らされたスクリーンとリアルな音響と振動に浸っていると、あたかも実際に井戸の底にいる様に感じられ、そこにお調子者の船長の「このままだと石油が生産できないから、フラッキング(水圧破砕)してみようか?」といったセリフによって、あくまで気楽に最新の石油掘削の実際が学べるようになっている。石油掘削に関してここまで本格的なアトラクションを作れるのも石油の街ヒューストンならではだと思う。

oil 1

oil 2

もう一つがヒューストンの南東、メキシコ湾に面したガルベストンに位置するOcean Star Offshore Drilling Rig & Museum。一般の人が石油掘削、特に海上での石油掘削と言われて思い浮かべるのは、海の上に大きなやぐらがそそり立っている姿だと思うが、ここにはかつてメキシコ湾で実際に使われていた、石油の井戸を掘るベースとしてのそのやぐら(リグ)が、そのまま博物館となって保存されている。内部にはWeiss Energy Hallと同じく、石油自体や石油掘削技術に関する展示がある他に、二つの階を貫いて深海底が再現されたエリアがあり、セミサブマージブルリグ、ジャッキアップリグ等のリアルな模型が誇らしげに置かれ、こうした各種リグの技術開発がいかに深海での石油開発を可能にしたかが説明されている。

ここはかなりマニアックな施設なので、多少なりとも仕事上関わりのある人でなければ、隣に数件並ぶシーフードレストランでメキシコ湾から採れたばかりの魚に舌鼓を打った方がいいと思うかもしれない。ただ、そのシーフードレストランにしても、屋外のテーブルからメキシコ湾を眺める時に飛び交うカモメの間から見えるのは、近くには巨大なリグの修理工場、遠くにかすんで見えるのは実際に海の底から石油を生産し続けるリグである。それを見てここがテキサスだと改めて実感し、リグをそのまま博物館にしてしまおうというテキサスの人々の石油掘削に対する強い思いを感じるなら、一度は足を運ぶ価値があると考えてもらえると思う。

rig.jpg

ただ、個人的にはヒューストンが石油の街だと強く感じさせるもう一つの大きな展示がある。それはヒューストンの東の空に登る朝日、そしてヒューストンの西の空に沈む夕日である。ヒューストンにしばらく滞在した人は誰でも、朝日や夕日が日本と比べて随分大きいことに気づくと思う。特に夕方、高速道路を走っている時などに、さえぎるもののない高くて広いヒューストンの空に大きな夕日が見えた時には、すっかりその美しさに魅入ってしまう。だが、ヒューストンの太陽が他の場所と比べて大きいのは、ヒューストンの東部にあるアメリカ最大の石油化学プラント群から大気中に放出される微粒子が太陽からの光を屈折させ、太陽を実際よりも大きく見せているかららしい。

そう、ヒューストンの太陽の怪しい美しさは、石油という資源に人生を賭けてきた人々の情熱と罪深さを表現しているのだ。その時代、その場所に生きる人々の何事かに対する思いの強さが、それを博物館に展示させさらには文化として固着させていくなら、この太陽こそ展示されるべきものかもしれない。


Weiss Energy Hall (Houston Museum of Natural Science(ヒューストン自然科学博物館)内部)
www.hmns.org/‎
5555 Hermann Park Dr Houston, TX 77030 アメリカ合衆国
+1 713-639-4629


The Ocean Star Offshore Drilling Rig and Museum
www.oceanstaroec.com/‎
2002 Wharf Rd Galveston, TX 77550 アメリカ合衆国
+1 409-766-7827
ヒューストン観光ガイド② オレンジ・ショー
文化とは、アートとは、誰のものなのだろう?

時と場所を問わず、その問いに答えることは容易ではなく、それは現代のここヒューストンでも同様だ。全米に誇れる一大美術・博物館群、ミュージアム・ディストリクトを抱え、オークションに出展されれば、相当の高値で取引されるであろう美術品を多数抱えるこの街。でも、おそらく文化とはそうした高尚な芸術だけではない。ここが仮に「文化都市ヒューストン」であるならば、その広がりはより大きな地平に広がっているはずだ。そう確認させる場所がこの街の東の外れにある。

イースト・エンド、ダウンタウンから45号線を南東に進んだところにあるこのエリアは、一般に比較的治安が悪いと言われ、特に用事がなければなかなか近づくこともないと思う。ただここには、同じ名前を関するロンドンの東の外れの一角と同じく、アーティスト、特に、日々の生活を必死に生きる一般の人々をターゲットにした作品を制作するアーティストが多く住むエリアでもある。

ヒューストンの郵便局員であったジェフ・D・マックキサックもそんなアーティストの一人だった。1956年、彼は近所で拾ってきた廃材や古びたおもちゃ、その他一切のガラクタを自らの土地に運び出し、それをカラフルに染色した上で一つのモニュメントを作り始める。数十年が建ち、モニュメントが一つの巨大な城になった時、彼は自分の大好物で、それを多く摂取すれば世界の人々がより健康になると信じて止まない食べ物、「オレンジ」にちなんで、自らの城を「オレンジ・ショー」と名づけた。彼は自らが作り上げたモニュメントに、ヒューストン中、いや、アメリカ中の人々が訪れると信じたまま、この世を去ったのだった。

彼の死後、もともとガラクタで作られたモニュメントは、急速に朽ちかけようとしていたが、この孤独な老人の夢に、視覚芸術としての価値の高さを感じ取ったヒューストンのアートのパトロン達は、Orange Show Center for Visionary Artという組織を作り、修繕を施した上で1982年にこのモニュメントを一般に公開した。遊園地のアトラクションの様な入り口から一歩中に入れば、内部は色とりどりの取っ手や柵に導かれて、迷路の様にあらゆる方向に広がり、一見価値のないものでも、イマジネーション一つで素晴らしいアートに変えることができるのだという事実を気づかせてくれる。

そう、ここはヒューストンにおける「庶民による庶民のためのアート」の一つの中心なのだ。


Orange show

そして、オレンジ・ショーはその後、ヒューストンの人々にとって、最も身近なものを題材にしたアートの運営も担うようになった。毎年5月に開催され、思い思いのデコレーションを溢れんばかりに施されたアート・カー達が通りを練り歩く、ヒューストン・アート・カー・パレードだ。この週末、オレンジ・ショーのモニュメントを会場にして、アート・カー文化をテーマとしたドキュメンタリー映画の上映会が開かれた。

映画には、ヒューストンの人々、テキサスの人々に取って最も身近な存在、どこへ行くのも一緒の相棒である「車」を誰よりも愛し、だからこそそれを思い思いのアートに変えずにはいられない個性的なアーティスト達が多数登場し、自らもアート・カーの製作者であるとともに高校教師であるレベッカ・バスの活動を軸に画面が進んでいく。彼女は、ヒューストンの低所得者層として暮らす生徒たちに5月のパレードに向けてアート・カーを製作するという課題を与え、その課題を通して、アーティスティックであること、また、アート制作を通じて自分に向き合い、更には自らの殻を破ることの素晴らしさを教えようとする。映画の上映後にはレベッカ本人が登場し、「新しいアート・カーは作らないのか」という観客からの質問に対して、まるで自らの存在を否定されたことを怒っているかの様にこう答えたのだ。

「わたしがアート・カーを作り続けることを止められると思うの?」

おそらくその場にいたアジア人は僕らだけだったけれど、今夜改めてヒューストンの、そしてアメリカの文化の奥深さを知った気がした。

art car movie

****************************************************

一見したところ、外国人が入りにくい雰囲気がありますが、実際にはスタッフもみんなフレンドリーで、ヒューストンのアートの裾野の広さを知る意味でも、絶対に一見の価値ありです!定期的に映画の上映会等のイベントを実施しているので、事前にイベントの日程を確認して行くとより楽しめると思います。

ザ・オレンジ・ショー

http://orangeshow.org/
住所: 2402 Munger St, Houston, TX 77023 アメリカ合衆国
電話:+1 713-926-6368




ヒューストン観光ガイド① ロスコ・チャペル
「個々の宗教を超えて、時に「神」と呼ばれる超越的存在に近づける場所があったなら」

科学技術は絶え間ない発達を続け、先端医療等の分野ではかつて「神の領域」と呼ばれていたタブーに近づこうとしている2010年代現在。それでも未だ宗教は衰えることなく、各宗教間の争いは国際紛争の主要因となっており、宗教を超えて人間存在を洞察できる機会がますます求められていると言える。

1960年代のアメリカはテキサス州ヒューストン、そんな課題に挑んだ二人のユダヤ系アメリカ人がいた。20世紀半ばのアメリカ美術界できらめきを放ったムーブメントである抽象表現主義(Abstract Expressionism)を代表する2人のアーティストであるマーク・ロスコとバーネット・ニューマンである。

ヒューストン都心のほぼ中心に近いエリアに彼らの挑戦の結晶としてのモニュメント、ロスコ・チャペルはある。隣接するメニル・コレクションと同じく、世界的石油サービス企業であるシュランベルジェの創始者一族であり、20世紀半ばのヒューストンでアーティストの最大のパトロンとして活躍した、ジョン・メニル、ドミニク・メニル夫妻が企画したものだ。

近くの芝生でくつろぐ地元っ子たちを横目に敷地内に近づくと、まずバーネット・ニューマンのBroken Obelisk(壊れたオベリスク)に出迎えられる。晩年の彼が多く製作した彫刻作品で、ピラミッドの上に下部が破損したオベリスクが逆さに突き刺さっている。古代エジプトに起源を持つ宗教的モニュメントを冒涜したかの様なそのシルエットは、彼の作品に通低する宗教的な絶望を示唆すると同時に、より普遍的なものへの熱望を示している様にも思える。

そして、オベリスクの脇には、六角形の建物であるロスコ・チャペルが静かに立ち、中にはマーク・ロスコが製作した一連の壁画が掲げられている。深い黒と紫色で染められたその壁画は、常にロスコ自身が望んだ様に、全ての壁を覆いつくす様に展示されることで、その中心に立つ者に、どの時間にも属してもいないかの様な超時間的な感覚を与え、それでいて、自分の存在を超えた何者かへの親密な結びつきを感じさせる。

企画者であるドミニク・メニル婦人は語った。

"This Chapel has roots deeper than our involvement. It is rooted in the growing awareness that love and the search for truth are unifying princples. It is rooted in the growing hope that communities who worship God should find in their common aspiration the possibility of dialogue with one another in a spirit of respect and love".

(このチャペルは私たち自身が関わったものよりも深いところに根ざしているのです。それは愛と真実への探究心が誰もに共通する原則であるという高まりつつある実感であり、それぞれに「神」と呼ばれるものを崇拝するそれぞれの集団が、尊敬と愛の精神の下、相互理解に至ろうとする情熱を分かち合えるはずだという希望なのです。)

残念なことに、マーク・ロスコとバーネット・ニューマンの両名は、このチャペルの完成を見ることなく、1970年に相次いでこの世を去った。一貫して「Abstract(抽象芸術)」と呼ばれることを嫌い、自身の作品が持つ宗教的性質を否定しなかった2人。「約束の地」を追われて以後、2000年以上を超えた離散の歴史を送ってきたユダヤ人の末裔として、「宗教間の融和」への望みも共通して強かったのかもしれない。

************************************************

ヒューストン観光ガイドをするなら、絶対に最初に紹介したいと思っていたスポットです。20世紀中盤のアメリカ美術が至った一つの到達点であるとともに、難しい背景知識なしに、その中心部に静かに座ることで、自分自身にもゆっくりと向き合える場所。ぜひ訪れてみてください!

menil.jpg


Rothko Chapel(ロスコ・チャペル)
http://www.rothkochapel.org/
住所: 3900 Yupon St, Houston, TX 77006 アメリカ合衆国
電話:+1 713-524-9839
営業時間:
月曜日 10時00分~18時00分
火曜日 10時00分~18時00分
水曜日 10時00分~18時00分
木曜日 10時00分~18時00分
金曜日 10時00分~18時00分
土曜日 10時00分~18時00分
日曜日 10時00分~18時00分



プロフィール

タツヒコ

Author:タツヒコ
アメリカのテキサス州ヒューストンに駐在する商社マンです。

カテゴリー

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

ブログ内検索

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。