FC2ブログ
午後23時、アメリカ南部にて
アメリカのテキサス州ヒューストンに駐在する筆者が当地にて感じた様々な事柄をお伝えします。
10 | 2018/11 | 12
S M T W T F S
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -

スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

異空間としての劇場とヒューストンバレエ
僕が大好きな映画の一つに、ラブコメディーの巨匠ウッディ・アレン監督の『ミッドナイト・イン・パリ』という映画がある。映画脚本家で初めての小説を執筆中の主人公は、婚約者及びその両親とパリを訪れる。憧れのパリに興奮する一方、婚約者やその友人の気取った会話に違和感を感じた主人公が、酔いつぶれて深夜のパリの街角を歩いていると、目の前に一台のアンティークカーが泊まる。その車には時代遅れの服装をした男女が乗っており、パーティーに行くという彼らに誘われるがままに車に乗り込むと、たどり着いた先は主人公が愛して止まない1920年代のパリだった。

連日のパーティーで主人公は憧れのフィッツジェラルドやヘミングウェイ、ジャン・コクトー達と出会いすっかり舞い上がるが、ある夜、パブロ・ピカソと当時の彼の愛人アドリアナと出会い、主人公はアドリアナに一目惚れする。しかし、主人公にとっては黄金時代である1920年代も、アドリアナにとっては退屈な色褪せた時代であり、二人は更にアドリアナの憧れであるベル・エポック期のパリに迷い込む。そこで伝説のレストラン「マキシム」を訪れた二人が出会ったのは、ロートレック、ゴーギャン、ドガといった巨匠達だった。

物語の結末はご自身の目で確かめて欲しいのだが、ウッディ・アレン一流のエスプリの効いたセリフ回しと、パリを愛した文豪や巨匠たちに実際に会えるという夢の様なストーリーの背後にあるのは、異空間としてのパリ、不満の多い現実から隔絶された理想の世界という構造である。1920年代やベル・エポック期のパリは無理としても、つかの間だけでもそんな異空間に浸ることはできないものだろうか。この週末、その答えは劇場(シアター)にあると感じさせる出来事があった。

この週末、ヒューストン・バレエは自身の劇場であるウォーサム・シアターで「メリー・ウィドウ」を公演した。この演目は、元々は20世紀初めにウィーンで書かれたオペラだが、後にバレエのストーリーとして再構成され、更に今回、ヒューストン・バレエ流のアレンジが加えられて上演されたものだ。架空の国家ポンテヴェドロの命運を握る程の財産を持った未亡人、ハンナのパリでの再婚相手探しをベースにストーリーは進むのだが、どの場面もダンスとその舞台設定は華やかそのものだった。

第一幕はポンテヴェドロの大使館でのフランス貴族趣味に満ちたダンスパーティー。第二幕では、パリ郊外のハンナの別荘を舞台に、スラブ風の祖国の民族衣装に身を包んだ一行が、素朴で軽快なポンテヴェドロの伝統的なダンスを披露する。そして、第三幕では、「ミッドナイト・イン・パリ」で主人公とアドリアナも迷い込んだベル・エポック期のレストラン「マキシム」を舞台に、バレリーナ達が巧みな足使いでスカートを捲り上げるカンカンダンスを踊り上げる。その刺激的でいて上品な様子は、それこそ当時のフレンチカンカンを愛したロートレックの絵画の様だった。

作り込まれた豪華な衣装や舞台装置と、たゆまぬ練習の成果としてのダンサー達の洗練された身体の動きに浸り、僕は数時間、ここがヒューストンであることを忘れ、日常を離れたどこか夢の世界に迷い込んだ様に感じていた。ただ一方で、劇場の外でもお会いしたことのある日本人ダンサーの方々の活躍が、この空間と現実とを結びつける。ヒューストンバレエには現在四名の日本人ダンサーの方が在籍しているが、今回の公演では彼と彼女達の見せ場も多く盛り込まれていた。そして公演の後、友人達に誘ってもらって、その日本人ダンサーの皆さんと食事を供にする機会を得たのだが、その席で一人のダンサーの方が、こんなことを語っていた。

「劇場は、ダンサー、オーケストラ、裏方の人々、そして観客自身が作り上げる一つの異空間なんです。「メリー・ウィドウ」の様なクラシックな作品でも、その日その時の時点での、ダンサーの経験や体調、気分によって生まれるパフォーマンスは異なるし、観客の側にしても、その日の気持ちや、一緒に訪れた人が誰かでも感じ方は異なるでしょう。劇場を訪れた人たちが上映中の数時間で、この一つの空間に思い思いの意味を見つけてくれればいいんです。」

そのダンサーの人も言っていたのだが、ヒューストンは残念ながらパリとは違って、街角を歩いていればたまたま文化的な事象に出会うといった場所ではない。(そもそも車社会のヒューストンで「街角を歩く」といったことはそうそうないのだが…)それでも、自分の手と足を使って探し続けていれば、このヒューストンでも、きっといくつもの魅力的な異空間に出会うことだろう。

ballet.jpg
スポンサーサイト

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
→http://ryusozan.blog64.fc2.com/tb.php/31-3021e29f
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

タツヒコ

Author:タツヒコ
アメリカのテキサス州ヒューストンに駐在する商社マンです。

カテゴリー

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

ブログ内検索

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。